宗教について 〜 人の生と死を考える 注46'

公開: 2023年3月17日

更新: 2023年4月10日

注46'. 利己的な資本主義

ドイツの社会学者が「資本論」で指摘したように、アダム・スミスの資本主義を、「資本家達の自由と市場における競争だけに委(ゆだ)ねれば、資本家達は、労働者や市場から、獲れるものを全て獲る結果になる。」と言う予言です。アダム・スミスの時代でも、イングランドにおいては、それによって景気循環が引き起こされることは指摘されていました。それは、「不景気になれば、労働者は解雇され、貧しくなる。」と言う現実でした。

この資本主義に潜んだ社会問題を解決するために、20世紀の経済学者ケインズは、政府の役割が重要であることを指摘しました。景気が良い時、政府は市場から利益を得ている企業に課税をし、景気が後退したら、政府は政府の財政を投入して、公益事業を行うべきであるとする、考え方です。このケインズの示唆に基づいて、各国政府が経済運営を行ったため、資本主義社会では避けることができなかった景気の後退を、最低限に抑えられるようになりました。

しかし、このケインズの政策を行うと、好景気の時に企業が市場で得た利益の相当分を、課税によって徴収しなければなりません。それは、企業の自由な意思に基づいた経営を阻害すると言う主張で、1980年代に入ると、米国社会ではそれに反対する経済理論が提案されました。それが、新自由主義経済の理論で、経済への政府の介入を可能な限り小さくし、企業の自由度を大きくすべきであるとしました。これは、特定企業による市場の独占を抑制するための、政府の介入なども控えるべきだとする考え方でした。

実際に、1980年代の米国社会では、共和党政権が、新自由主義を採用し、企業への課税を低減し、日本からの輸入増大に悩んでいた米国経済を改善しました。しかし、インターネットが普及した1990年代後半になると、コンピュータを利用した株や為替の取引が増加し、市場では様々な財が投資の対象になり、瞬時に巨大な利益を生み出すようになりました。人々は、お金を崇拝するかのように、投資で利益を出すためには、何をしても良いと考えるようになったのです。この状態を、「利己的な資本主義」と呼んだり、「強欲資本主義」と表現したりします。

人々が、資本主義社会で、倫理観を忘れれば、市場は秩序のない「混とん」に代わり、ただ、儲ける人々と、失う人々が出る、マネーゲームの場になるだけです。それでは、社会は進歩しません。

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